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~第十四話④~ 飛鳥とうさ子の戦いが始まる

Author: 倉橋
last update Last Updated: 2025-08-29 13:35:19

「あなた陸上部? そんなこと出来て、何の意味あるんですか? 何だか怪しい女性ひとですね」

 飛鳥は「朝井うさ子」と名乗る謎の「彼女」に逆襲したつもりだった。

 だがうさ子は飛鳥の回りを少しずつ移動しながらジャンプを続ける。

 青い空には、澄んだ歌声が響き渡る。

♬もしも空を飛べたなら あなたは私ひとりのもの

 この胸に強くハグして

 誰もいないところでふたりきり

 この広い世界

 ほかには誰もいらない

 あなたと私

 ふたりっきりで幸せだもの♪

 悔しいけれど、自然に涙が浮かんでくるような心のこもった歌声だった。そして歌声はいつのまにか遠ざかっていき、飛鳥はたったひとりになっていた。そのときだった。

「はじめまして。私、朝井うさ子といいます。ご存知でしょうか、高蔵彩良さんの友人です。うっかり裏の玄関に回ったところ、初対面の女の子から、

『あなた、誰? 陸上部なの? ここで何してるの? あなた、不審者ね。ここから先は一歩も通さないから』

と怒られてしまいました。誤解をさせてしまって、すみません」

 ネットワーク事務所側の玄関の方からうさ子と名乗る女性の声が聞こえてきた。あのよく分からない女性、一体、何てこと言っているのか? 飛鳥ったら、あわてて事務所に向かった。

 
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